イケメン王子の花メイド
「俺は婚約なんてしないぞ」
「うぅむ、響子が納得するとは思えんが…」
「まだ学生なんだぞ。……それに、結婚相手くらい自分で決める」
部屋の隅で、棗様と社長の会話を聞きながら私は少しだけ俯く。
目の前には綺麗に掃除されたピカピカの床があって。
なんだかこの床に立っているのも申し訳なく感じた。
〝結婚〟
……自然と、考えないようにしてた。
でも、棗様みたいな方が結婚されないはずもなく。
それは分かってた。
……棗様もいつか、愛する方が出来て、その方と愛を誓い合うのだ。
そして、それは絶対私じゃない。
棗様と私じゃあ、身分の差が大き過ぎる。
それに、棗様が私のことをそういう風に見て下さるわけがない。
私がこうやって、棗様のことを想ってしまっていること自体……身の程知らずなんだ。
私は棗様の幸せを一番に願ってる。
だから、
メイドとして……ずっと棗様にお仕えすることを望んだ。
私のこの棗様に対する〝気持ち〟は、メイドの私にとっては邪魔なものでしかない。