イケメン王子の花メイド
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翌日。
「……はぁ」
大きな溜息をついてジャケットの袖に腕を通す棗様。
今日は例の〝婚約者〟との面会日。
私も外行きのフォーマルな服装に着替えて準備済みです。
相変わらず棗様の表情は曇っていて、私もどうすればいいのか戸惑ってしまう。
「……そんなに気が進みませんか?」
「当たり前だ。話が急すぎてついていけん」
「……な、棗様っ」
「ん?」
美しいお顔がこちらを振り返る。
まっすぐな瞳でしっかり私を見てくれる棗様。
私は思わず俯いてしまって。
言葉が出てこなかった。
〝本当にご婚約されるんですか?〟
……答えを聞くのが怖いから、
肝心なことが聞けない。
「花?」
「あ、えと……ど、どんな方なんでしょうね!お相手の方っ」
「おい、なんか誤魔化しただろ」
「そんなことないですよ!ほら、もう時間がありませんよ!早く響子様のところへ向かいましょうっ」
「……分かったよ」
渋々許して下さった棗様を見て、少し心が痛む。
でも、これでいいんです。
主人と使用人の関係は、こうでなければならないのです。
私のこの気持ちは、絶対に棗様にバレてはいけない。
隠し通すことが、私の仕事ですもの。