イケメン王子の花メイド



近くで交通事故があったのは横山から聞いたよ。

夫婦が事故死したって。


……まさかそれがあのお母さんと旦那さんだったなんて。

私も信じたくなかったよ、正直。



だから、私は公園であの子を探したんだ。



高校生になった、彼女の娘さんを。――





そこまで話して、社長はふっと優しく微笑んで下さった。



私の頬には大粒の涙がとめどなく伝っていて。


何も言わず横山さんが私にハンカチを差し出して下さった。




「ごめんね、もっと早く言うつもりだったんだけど、なかなか時間とれなくて……。この話は花ちゃんとゆっくり話したくてね」




私は上手く声が出ず、ふるふると首を振ってみせた。



……私、知らなかった。

お母さんと社長が、そんな頃から知り合っていたなんて……。



そういえば、お母さんが「散歩友達が出来た」って嬉しそうに話してたことがあった。


……それが社長だったってこと?




「小さい頃にしか会ってないから、花ちゃんも覚えてなかったよね」


「すみませんっ……!微かに記憶はあるんですが、まさか社長だなんて……」


「ほっほ、いいんだよ覚えてなくて。こうして花ちゃんに会うことが出来てるんだから」




ぽんと私の頭を撫でて下さる社長。

その手が温かくて、少し棗様に似ている気がした。




「大切な人を亡くして、辛い思いをしている花ちゃんが1人で泣いてるんじゃないかって思ってね」




……あの日、社長と会ったのは偶然じゃなかった。


私のことを知っていて、私を心配して探して下さっていたから……会えたんだ。



それが、なんだかすごく嬉しくて安心する。


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