イケメン王子の花メイド
「諦めないんじゃなかったのか」
「……そうなんですけど……」
「まぁ、婚約だからな……」
茜さんが、以前私に喝を入れてくれたことを思い出す。
棗様のことを諦めようとしてたあの日。
〝花ちゃんに……悲しい顔して欲しくないもんん〜っ〟
頑張ってみようと思ったのにな。
……結婚なんて、もう諦めるしかないもん。
「好きだから辛いっていう気持ちは痛いほど分かる」
「……」
「言ってみたらどうだ。棗様に」
「……え?」
「自分の気持ちを素直に伝えてみたらどうだ」
それは……つまり……、
棗様に『好きだ』と告白するってことですか?
「そ、それは駄目ですよ……!」
「なぜだ」
「だって……棗様には綾小路様がいらっしゃいますし、何より私は棗様の専属メイドですし……」
「気持ちを伝えることは、別に悪いことじゃない」
いつの間にか私の足は止まっていた。
有馬さんも立ち止まって私を振り返っている。
有馬さんの顔は至って真剣だった。
「伝えてどうなるかが問題だが、沢田はどうなると思う」
「……」
優しい棗様なら、きっと「ありがとう」って仰って下さるかもしれない。
でも次は、困ったように笑って……「すまん」って。
想像して、胸が締め付けられるような感覚に陥ってしまった。