イケメン王子の花メイド
「少しその趣味のこと話してみろ」
「え」
「早く」
そんなことを言い出す棗様に、私は戸惑う他なかった。
は、話すって。
散歩の好きなとことか話せばいいのかなっ?
なんで好きになったとかっ?
私は少し考えてから話すことにした。
「…私の母が、よく散歩に連れて行ってくれたんです」
「……」
静かに聞いて下さる棗様。
その大好きな小説も閉じて机に置いた。
「行くところは公園や町など様々で、母が大好きだった私にとって、それは本当に楽しかったんです」
〝花。あれがお母さんの大好きなひまわり〟
「たくさんお話ししながら散歩して、私が大きくなってもずっとしてました」
〝それじゃあ行ってくるわね〟
最後に話したその場面は、ずっと頭の奥に張り付いている。
「……でも、つい先日…私の両親は事故で亡くなってしまって」
いつの間にか棗様から目を逸らしていた。
あ…泣きそう。
次々に思い出される両親との思い出が、私の心を締め付ける。
思えば、本当に最近まで、私は普通の一軒家に住んでたんだ。
普通の食事をして、普通に学校に行って、普通に勉強して。
つい最近のことなのに、どこか遠く寂しいその記憶。
葬式で、あんなに、泣いたんだけどな。
「……」
「すみ、ません…」
溢れる涙を必死に拭うしかなかった。