イケメン王子の花メイド
地図を見つつキッチンへと辿り着いた私は、きゅっとエプロンの紐を締めた。
さて何を作ろう。
甘過ぎるものだと棗様や馨様のお口に合わないかもしれない。
ここは無難にクッキーでも…。
そうと決まれば、早速作りましょう。
私はコックさんから少し分けて頂いた材料をザッと並べ、作業にかかった。
クッキー。
実に思い出の多いお菓子です。
お母さんと初めて作ったお菓子がクッキーだった。
こねて、自分で型を抜いたり作ったり、焼き上がるまでの間はずっとオーブンのそばから離れなかったな。
それからは度々作ることもあり、すぐに自分で作れるようにまでなった。
初恋の人に渡したのもクッキーだった。
バレンタインの日、想いを込めたチョコクッキーをその彼に渡した。
どうやら彼も私のことを想ってくれていたようで、二人は見事結ばれたのである。
しかしその彼は半年後に引っ越してしまい、その頃はお互いよそよそしくなり出していたので、その恋、敢えなく散る。
そんなたくさんの思い出があるクッキー。
また思い出が増えるみたいです。
生地を作り終わり、冷蔵庫で寝かせた後伸ばして型をくり抜いていく。
今回はメープルクッキーを作ってみた。
お口に合えばいいな。
今頃棗様達は優雅にあの書斎で本を愉しんでいるのでしょう。
たくさんの物語に包まれて、その一つの世界に入り込む。
なんて素敵なことか。
そうして私はシートをひいた天板にくり抜いたクッキーを並べ、オーブンの中に入れる。
あとは焼くだけ。
メープルの甘い香りがキッチンを漂っていた。