ナナイロのキセキ
「あの、ごちそうさまでした。」
「いや。こちらこそ。楽しかったから。」
レストランを出てお礼を言うと、二人で同じ方向へ向かって歩き出す。
坂下さんの家は私鉄の沿線だけれど、私が乗るJRの改札まで送ってくれるとのことだった。
(ちょっと飲みすぎたかな・・・。)
あの後、自分の気持ちがどうにも落ち着かず、気を紛らわすように、ワインを続けて飲んでしまった。
お酒は弱いほうではないけれど、あまり覚えていないし、少し、飲みすぎてしまったような気がする。
ちらりと、黒いコートの背中を見る。
それだけで、胸がドキンと音を立てる。
(もう、なんだか、さっきからドキドキが止まらないんだけど・・・。)
待ち合わせをしたときよりも、確実に、隣で歩く距離を意識してしまう。
ほんの少し手を伸ばしたら、触れてしまう距離。
ワインのせいなのか、胸の高鳴りのせいなのか、頬がほてって、身体が熱い。
(ちょっと、ぼおっとしてきた・・・。)
駅までの道のりは、二人とも、あまり話をしないで並んで歩く。
しばらくすると、視線の先に改札口が見えてきた。
(あ、着いちゃった・・・。)