ナナイロのキセキ

(そっか・・・。そうだよね。メールしておけば、多少遅れても大丈夫だったかな。

そんなことすら考え付かなかったよ・・・。)


とはいえ、やはりそれは遅刻であることには変わりないし・・・と考えこむ私に、坂下さんは続けて声をかけてくる。

「まあ、こんな風に焦ってる牧野さんもかわいいし、急いで来てくれたこともうれしいけど・・・。

仕事の都合とか・・・忙しい日もあるだろうから、無理はしてほしくないんだ。」

耳元に落ちてくる言葉が、ふんわりとやさしい。

うれしさと恥ずかしさを感じながら、ドキドキした胸に手を当ててみると、だんだんと、気持ちも呼吸も落ち着いてきた。

「・・・落ち着いた?」

「あ、はい・・・。」

「じゃあ、そろそろ行こうか。少し、歩くんだけど。」

そう言われ、坂下さんの右隣を、この前よりも少しだけ近づいて歩く。


(このくらいは、してもいいよね・・・。)


きっと、坂下さんには気づかれないくらいの、私のちょっとだけの勇気。

ドキドキと、胸はうるさいけれど。

それは、心地いい響きの音で、私の気持ちを高揚させる。

時々、私に目線を落とし、話しかけてくれるやさしい笑顔。

そのたびに、キュンとするような、うれしさがこみ上げる。


(やっぱり、好きだな。)


ひとつひとつの言動に反応するように、私は、自分の気持ちを改めて感じていた。









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