ナナイロのキセキ
二人で、職場とは反対方向の商店街に向かって歩く。

途中で脇道に逸れ、奥まった路地を進んでいくと、白い壁にやわらかいランプの光が照らされた一軒家のお店の前で、坂下さんは立ち止まる。

「今日はここ。この前のお店より、緊張しないと思うよ?」

少しいたずらっぽい顔で私に言うと、重厚な木製のドアを、ギイッと音をたててゆっくりと開ける。

「はい。どーぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

私を先に店内へ通してから、坂下さんがお店に入る。


(わ、かわいい!)


店内に入ると、外観と同じく白い壁にやわらかなランプの灯が注いでいた。

ダークブラウンの味わいある家具で統一された店内は、古さとあたたかさを兼ね備えた、イタリアの片田舎を思わせる雰囲気だった。

小さな花瓶など、ところどころに飾られている雑貨たちが、かわいらしさも演出している。

「いらっしゃいませ。」

赤いギンガムチェックのエプロンをした店員の女の子が、私たちを出迎えてくれる。

坂下さんが名前を告げると、「こちらにどうぞ」と窓際の席に案内してくれた。


(いつも、予約しておいてくれるんだな。)


大人のデートに慣れていない私は、それが当たり前のことなのかどうかもわからない。

でも、高校生のときの恋愛感覚のままでいる私には、それは、とても特別なことをしてもらっているように感じていた。




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