ナナイロのキセキ

「あの、なにか・・・?」

「いや、オレの職場そこで・・・、牧野さん、仕事終わるのこれくらいかなと思って、ちょっと待ってたんだけど・・・。」

言いながら、斜め向かいのビルを指さす。

「は、はい・・・?」


(施術中も、たまに仕事の話をするくらいで、落ち着いた大人のひと、という印象なんだけど・・・。)


細長い身体に、黒いビジネスコートがよく似合う。

華奢な銀縁眼鏡をかけたキレイな顔立ちは、どうしてもクールな印象がしてしまう。

だけど。

いまはなぜは、落ち着かない様子で言葉を探している。

「その・・・。実は、転勤が決まって。」

「へ?」


(転勤!?突然なにを???)


予想外の言葉に、私はわけがわからず、次の言葉を待つ。

「兵庫なんだけど・・・。まあ、だいぶ遠くなるから・・・、牧野さんに、もう会えなくなるなと思って。」


(え???)


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