私たち、政略結婚しています。


しばらくすると、佐奈は思い直したように涙をぐっと袖口で拭った。
そのままクルッと俺に背を向けるとずんずんと歩き出す。

「ちょっと克哉!笑っていないで早く来なさいよ!帰るわよ!」

佐奈が俺を振り返り呼ぶ。

俺は強がって照れ隠しをする彼女を見ながらクスクスと笑った。

「あれ?俺も一緒じゃないとやっぱりまだ怖いのか?まだあいつは捕まったままだぜ?俺なんかいなくてもいいんだろ?こんな最低な旦那はいらないんだろ?」

「…く…っ!」

俺の言葉に悔しそうな顔をしながら再び前を向いて歩きだした彼女に走って追いついた。
その肩を抱いて耳元で言う。

「ごめんって。お前が怒ると面白いからつい。もうバカにしねえから」

「最悪…」

言いながら肩を震わす佐奈を、……心から可愛いと思う。

俺は意地っ張りな彼女が、怒ったり困ったりするのが大好きなのだ。ちょっと、変わってるかもと自分でも思う。
だが、仕方がない。

お前が困ったときに、真っ先に話してもらえる関係になりたい。遠慮や戸惑いを感じないような。

「今日のご飯は俺が作るよ。だから機嫌直せって」

「…本当?カップ麺じゃなくて?」

「おう。任せとけ」

佐奈が俺を見上げる。

う。
ヤバいって。
そんな可愛い顔をするな。

Sキャラを保てなくなる。

甘えるような佐奈の視線を受けて、俺は動揺を抑えるのに必死になっていた。

「じゃあ私、ハンバーグがいい」

「…子供かよ。しゃあねえな」

「やった!早く帰ろ!」

…人の気も知らないで。

ストーカーだなんて。はらわたが煮えくり返るって。
マジで勘弁しろよ。
そんなことを思いながら俺は佐奈を見ていた。


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