私たち、政略結婚しています。
「秋本くん!やめて!」
二人のやり取りに唖然とする。
「亜由美が……何だって?」
訳が分からない。
何故ここで彼女の名前が出てくるんだ。
俺が…待たせている?
「意味が…分からねぇんだけど」
「まだとぼけるんですか!」
「秋本くん!」
三人の間に漂う沈黙。
お互いの顔を見合ってただ、黙り込む。
「………浅尾さん、行こう」
秋本が佐奈の肩を抱いて無理矢理歩かせながら店を出て行こうとする。
「ちょっ…待てって」
後を追うように呼び掛けると、秋本が振り向かないままで足を止めて言う。
「浅尾さんをこれ以上傷付けたら、あなたを軽蔑します。
俺も浅尾さんを好きだった事があったので。
浅尾さんには幸せになってもらいたいんです」
それだけ告げると秋本は再び歩き出した。
ガラガラ。ピシャッ。
店の扉が閉まって二人は外の闇に消えた。
最後に扉が閉まる瞬間。
佐奈の涙に濡れた目が、一瞬だけ俺を切なく見るのが見えた。
俺はそのまましばらく、そこを動けなかった。