私たち、政略結婚しています。
最後のプライド
「大丈夫?」
秋本くんが私の顔を覗きこんで心配そうに訊ねる。
「うん…」
「ごめん。俺…、つい色々言っちゃって。何だか伊藤さんが許せなくて…。関係ないのに熱くなって…」
申し訳なさそうに言う彼を見て私はクスッと笑ってみせた。
「なんで秋本くんが謝るの?私、嬉しかったよ。心配してくれて」
「本当にごめん。…今から戻って伊藤さんに謝ろうか?」
「いいの。これで。もう、終わったことだから。克哉もこのままのほうが私と別れやすいわ。あの人、妙に真面目なのよ。
秋本くんの存在があれば、安心すると思う」
私が強がって言うと彼はさらに申し訳なさそうな表情になる。
「…本当に好きなんだな、伊藤さんのこと。相手の幸せを考えて身を引くなんてなかなかできないことだよ。
…まずったな。俺が今フリーなら迷わず口説くのに。本当にいい女だよ、浅尾さん。
伊藤さんももったいないことするよなー」
「慰めてるの?ふふっ。お世辞でも嬉しいわ」
泣きそうになりながらも笑顔を崩さないように言ってみせる。
「お世辞じゃないよ。ほんとにそう思ったんだって」