私たち、政略結婚しています。
笑いながら思った。
後悔なんてしていない。
克哉を好きになって本当に良かった。
我が儘で自分のことばかり考えてきた私が、あんたの為に何かをしてあげたいと思えた。
本当に好きな人と過ごす時間が、とてつもなく幸せだと分かった。
意地悪な笑顔も、綺麗な寝顔も、温かい手のぬくもりも、全てを忘れない。
…私のものではなかったけれど。
自分の愛を犠牲にしてまで私を救おうと思った、克哉の優しさを知って、私は大きく成長できたと思う。
「今日はこのまま送るよ」
「まだ飲み足りないんじゃない?どこか入って飲みなおそうよ」
秋本くんは私の頭を撫でながら言う。
「あんまり無理しないで。今日は…一人で思い切り泣きな?そんな時間も時には必要だよ」
「…うん。…ありがと」
彼の言う通り、正直もう、限界だった。
中沢さんの冷たい視線。
克哉の困惑した表情。
思い出しただけで足が震える。
そんな自分を、秋本くんに見られたくなくてつい頑張ってしまう。
秋本くんを好きになれていたら、きっと幸せだったのだろうなと思う。
「秋本くんの彼女は幸せね」
「うわ。横恋慕?俺、今からもめるの嫌だな~」
「嫌だ、奪ったりなんかしないわよ。彼女を悲しませないでよ」
「な~んだ。ちょっと期待したのに」
冗談を言い合いながら、二人でタクシーに乗り込んだ。