私たち、政略結婚しています。
「…あ。あれって…」
その時秋本くんが呟いた。
「え?」
彼の方を向くと、秋本くんは私とは反対の窓の外を見たまま動きを止めている。
「…伊藤さん…」
え?
私も彼の目線の先の方を見た。
歩道を一人の人物が走っている。
道行く人を掻き分けながら、キョロキョロと辺りを見回す。
誰かにぶつかり謝る。
そしてまた、駆け出す。
「克哉…?」
「浅尾さん。…話を聞いてあげた方が…」
克哉の慌てぶりに秋本くんが言う。
「きっと浅尾さんを捜してるんだよ。何か言い残したことがあるんだ」
ゾクッと背筋が凍る。
秋本くんの言い方に、悪いことばかりが思い当たる。
克哉の話は、きっと別れの宣告だ。
これまで私に隠してきた中沢さんのことを全て話すつもりなんだ。
克哉の性格からして、このまま黙っているわけがない。
中沢さんとやり直す前に、きちんと私とのことを清算するはずだ。