私たち、政略結婚しています。
「その代わり、これからはきちんと何でも言えよ。隠し事はやめろ」

「…はぁい。…ごめん」

しょんぼりとしながら返事をする彼女の手を繋ぐ。
小さな手は氷のように冷えている。それをギュッと握る。温めるかのように。

お前が俺を好きではなくても。
結婚したことを一生の不覚だと後悔していても。
別れたいと思っていても。

絶対にこの手は離さない。離したくはない。
心からそう思う。

「でも、大体何で今日は先に帰ったのよ。お陰で全然進まなかったわ」

佐奈は俺の手を振り払うこともなく話し出す。口をツンと尖らせながら。
繋いだままの手を見ながら、やはり怖かったのだろうと思う。
ストーカー男にパンチ一つごときで終わらせた自分をもどかしく思った。

「ああ、何だ。やっぱり寂しかったんだろ?」

「ち、違うわよっ。しかも帰ったと思ったらあんなところにいるし。意味分かんない」

「いや、お前を迎えに来たんだって。先に帰ったら可哀想かなと思い直してさ。俺って優しー」

「だったら一緒に仕事してればいいでしょ?何なのよ、本当に」

…単純に、悔しがる顔と、驚く顔が見たかっただけだ。そんなことは決して言わないけどな。

「まあそうカリカリすんな。明日からはちゃんと最後までやるよ」

「絶対だよ。期日に間に合わなくなるから。私はあんたと違って今回の企画に賭けてるのよ!」

…これからも、ずっと。お前がそばにいてくれるなら…俺を愛さなくてもいい。

その時はそう、思っていた。



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