私たち、政略結婚しています。
私は顔を上げて克哉を見た。
「ん…?」
私の顔を覗きこむその顔には微かな笑みが浮かんでいた。
「……何が…可笑しいのよ…」
私がこんなに必死に気持ちを抑えているのに。
責めたりなじったりしないように耐えているのに。
あんたはまた、いつもの余裕顔なのね。
「……可笑しい訳じゃない。
……可愛いなと思って」
「え……っ……」
彼を睨んでいた目がキョトンとする。
「…かっ……可愛いって…」
動揺する私に克哉はさらに付け足して言った。
「………泣き顔は相変わらず壊滅的に不細工だけどな」
ムカッ。
なっ………!
「…あんたに可愛いだなんて今さら思われないことくらい知ってるわ。いちいち嫌みくさいのよ…」
「はは……っ。……いつもの佐奈だ。
お前はしおらしいよりも文句を言ってる方がいい」
そう言いながらふわりと笑顔に変わる克哉を見ながら、心の中から克哉を消すのはどうしても無理だと改めて悟った。
私はぼんやりと途方に暮れるような思いを感じていた。
どこに向かえばいいのか、分からない。
秋本くんが言ったように身を引くだなんて私にはやっぱりできない。
私はそんなにいい女じゃないから…。
秋本くんは私を買い被っている。
本当は口説く価値なんて、ないのよ。
こんな私の髪を撫でてくれるのはこの手だけ。
そう思いながら、克哉に再びしがみついてその胸に顔を埋めた。愛しい匂いを吸い込みながら。