私たち、政略結婚しています。
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「浅尾屋、今月いっぱいで閉店だってね」
「え、そうなの。何で」
「もう借金で、にっちもさっちもらしいわ」
「へぇ~…そうなんだ」
半年前。
実家で母に言われて何気なく返事をした。
俺の実家は菓子製造メーカーだ。地元では名の知れたブランドを持っていて、そこそこの大きさの会社を経営している。
昔から何不自由なく育ててもらったのはそのお陰だと感謝している。
「浅尾屋さんに委託して作ってもらっていた分、よそに回さなきゃいけなくなるわね。
しかし、気の毒ね…。
あ、…そう言えば娘さんがあんたと同じ会社にお勤めじゃなかったかしら」
「え。浅尾屋の娘?そんなの聞いたことないけど…」
俺は初めて聞く話に興味を持って、手にしていた雑誌を置いて母の顔を見た。
ん?…待てよ。浅尾屋。
…浅尾…って…。
「それって…浅尾佐奈?」
「あ、そうそう!佐奈さん。綺麗な子だったわよね。一度だけ見たわ。あんた知ってるの?」
母の返事に俺は絶句していた。
浅尾佐奈。
同期で同じ部署の彼女と俺は、毎日のようにくだらない衝突を繰り返していたのだから。
はっきり言って、苦手なタイプの奴だった。
まあ、見た目だけはいいなと思っていたけど。
大体、俺が彼女に興味を持っても無駄なことだ。彼女からは俺が嫌いなオーラがガンガン出ている。
『寄るな、見るな、話しかけるな』と毎日言われているような扱いを受けているのだから。