私たち、政略結婚しています。
―――彼の指が、私の肌の上を滑らかに滑っていく。
ゾクゾクする感覚と戦いながら理性を保とうと必死になる。
そんな私の耳に、容赦なく囁かれる甘い声。
「…佐奈…。我慢しないで…」
もう、だめ。
私の五感、すべてが負けていく。克哉の思うつぼとなる。
蕩け出していくように素の自分にされていく。
こんなに甘やかされたら、忘れられるはずがない。一瞬、彼への怒りを感じる。が、次の瞬間にはまた新たな快感に引き込まれていく。
このまま彼と泳ぎ続けて、たどり着く場所はどこなんだろう。
そこに待ち受けるものは何なのだろう。
「佐奈、どこにも行くな」
どこかに消えてしまうのは克哉の方でしょ?
「俺を見て」
私を見ていないのは、あんたでしょ?
好き。克哉が、好き。離したくない。ずっとここにいたい。このままいつまでも、こうしていてほしい。
何年も前から、ずっと好きだった。
憧れて、恋して、見つめて、ようやく触れることができた。
どうして政略結婚だったの?何故、普通ではなかったの?
彼の髪に触りながら、涙を堪える。
私のものだったなら。この髪の一本一本までも、すべてが。
とにかく今は、このままこの、優しい温もりに、溺れていたい。
このまま明日が来なければいいのに。