私たち、政略結婚しています。
「その佐奈さんだがな、糸井製菓の武雄くんとの縁談があるそうだぞ。そうなれば浅尾屋も何とか持ち直すだろうな」
俺と母の会話に、父が入ってきた。
「縁談?そうなの?それならよかったわね。うちもこのまま浅尾屋さんにお願いできるわ。あそこは長い付き合いだから変えたくはないもの」
父の話に母が嬉しそうに頷く。
「え?縁談って。武雄さんと結婚するのか?」
俺は眉をしかめた。
糸井製菓の武雄さんは確か四十半ばだったと思ったからだ。しかもあまりいい噂も聞かない。独身でいるのは遊びたいからだとか……。
毎日連れている女が違うだとか。
そんな生活を現在送る武雄さんが今のタイミングで結婚したいだなんて思わないような気がするのだが。親に言われて仕方なく従うのか?
しかも浅尾は俺と同期だから二十近くの歳の差がある。
「年が離れすぎているだろう。そんなはずないじゃないか。武雄さんは女性関係が派手だと聞くけどな」
「あら、この事態だもの。浅尾さんもそんなことを言ってはいられないでしょう。武雄さんは優しい人だし。いいお話じゃないの」