私たち、政略結婚しています。




指輪?指輪をもらった話を佐奈が信じている?

俺はあの、指輪を捨てた日のことを思い出していた。

確か、佐奈に冷たくされひどく気落ちしていた。屋上で亜由美に会って、そのままごみ箱に………。


彼女が俺が立ち去った後にそれを拾い上げる場面を想像してゾッとする。

まさか。…そんな事が…?


『女性に指輪さえ贈ればいいと思ってるんですか?
男は一生の間に一つ用意すればいいんですよ。

何個もばらまくものじゃない。
あなたのその行為が浅尾さんを傷付けたんですよ』

突然、脳裏に浮かんだ秋本の言葉。

間違いない。

亜由美は佐奈を追い詰めている。

そう確信して俺は休憩室に入ろうとした。
………が、やめた。

今、乗り込んでもダメだ。

今度は俺が、亜由美を追い詰めてやる。

こんな事で佐奈と別れるだなんて冗談じゃない。

ただ、…佐奈の笑った顔をずっと見ていたいだけなんだ。

絶対に佐奈を手放したりはしない。

俺は拳に力を入れたまま、その場を立ち去った。



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