私たち、政略結婚しています。
―――「急に二人きりになりたいだなんて、どういう風の吹き回しなの?」
会社から少し離れた郊外にある、洋食屋で亜由美と二人向かい合って座った。
人があまりいないことを予測したのに、店はずいぶん混んでいる。
「いや…、まあ、何となくな」
亜由美の本音を探りたいだなんて言えはしない。俺は適当に言葉を濁しながら彼女の目からその手元へと視線を移した。
…指輪なんて…しているはずはないよな。
拾って亜由美が持っているにしても、そこまでは普通はしないだろう。
あれには佐奈のイニシャルがしっかりと刻まれているのだから。
「克哉?どうしたの」
「あ、いや」
俺が慌てて笑ってみせると亜由美もつられて笑い返してきた。
昼間に見た場面が嘘のように思える。
亜由美は恋人関係にあったときは非常にいじらしく、尽くすタイプの女だった。
俺はそれに甘えてずいぶんと勝手気ままにふるまってきたのだ。
別れを切り出したときも当然、亜由美は俺の意見に従うものだと思っていた。
だが、その時に見せた彼女の怒りに満ちた目と態度が、実はプライドの高い女だったということを俺に気付かせた。
『私を振るだなんて、あり得ない男ね。いつか必ず後悔させてやるわ。許さないから』
俺の頬を思いきり張った後、吐き捨てるように彼女は言った。
今、目の前にいる亜由美はしおらしかったあの頃の彼女と何ら変わってはいない。残忍さの欠片も感じさせない。
本当にストーカーをけしかけたのか?
…いや、だが彼女ならばやりかねないか…。