私たち、政略結婚しています。
俺は彼女の話に、何も言えなくなっていた。
俺のせいだ。
佐奈を苦しめたのも、亜由美を追い詰めたのも。
軽い気持ちで亜由美を傷付け、佐奈に本気で愛されたいと駄々をこねている。
「……じゃあ、俺を苦しめたらいいだろ。佐奈は関係ない。
質問に答えろよ。どうして君が俺達のことを知ってるんだよ」
俺が言うと亜由美は鼻でせせら笑った。
「そうよ。あなたを苦しめたいから、あの子を狙ったのよ。浅尾さんを傷付けたらあなたは相当なダメージでしょ。
あなたたちのことなら何でも知ってるわ。私はいつでもあなたたちを見張ってるの。私の知らないところで親密にしようだなんておかしいもの。
前に部屋に行ったときに着けた盗聴器があなたの間違った言動を伝えてくれてるのよ。便利な世の中よね」
俺は亜由美を見ながら目を見開いた。
正気なのか…?
まさか、そんなことが…。
「……あなたは…あの子に本気になりかけてる。
分かるわよ、あなたをずっと見てきたから」
……そうか。ずっと前から。
佐奈しか見えてなかった。自覚するより、ずっと前から。
亜由美にすら分かるほどに。
「……ふふっ。…そうか」
俺は今さら何を言われてるんだろう。
政略結婚だなんて、言い訳も甚だしい。
「……克哉…?」
本物のストーカーは亜由美だった。
俺を見張っていたのか。
佐奈ではなく、俺が被害者だったのか。
「分かったよ、自分の本当の気持ちが。今さらだけど。
だから……指輪を…返してくれないか」
亜由美の肩がびくりと揺れる。