私たち、政略結婚しています。
その時、スーツのポケットの中の携帯が揺れた。
「あ、電話だ。ちょっと待って」
取り出して画面を見る。
『克哉!遅いよ!どこにいるの?ご飯全部食べちゃうよ〜。言っておくけど、カップ麺じゃないんだからね』
メールの写真には湯気をたてている肉じゃがが映っている。
「メール?」
亜由美が聞いてくる。
「あ、うん。会社だよ」
「そう。大丈夫なの?」
「…うん。何でもない」
俺は携帯をポケットにしまうと、亜由美を見た。
「ごめんな。…ごめん」
「なぁに?謝らないでよ〜。メールの確認くらいで怒らないわよ」
「うん。ごめん…ごめ……」
ごめんな、佐奈。
もう、お前の手料理は一緒に食べられそうにない。
「謝らないでって。迷ってあの子のところに行ったことなんて、怒ってないから。私のところに帰ってきてくれるなら」
言いながら亜由美は屈託のない声で笑う。
ようやく分かったのに。
何よりも大切なのに。
だからこそ、ダメなんだ。
亜由美が危険すぎる。
亜由美を追い詰めるつもりだったが彼女の方が一枚上手だ。脱力してそんな気力すらなくなっていく。
佐奈、お前を守りたい。
それがたとえ別れに繋がったとしても。