私たち、政略結婚しています。
私は静かに彼の身体の上から降りた。
「じゃあ…寝るわ。おやすみ」
返事をしない克哉に言うと、そのままそろそろと寝室に入る。
パタン。
ドアを閉めた瞬間に涙が溢れてきた。
克哉に直接訊ねたりはしなかったけど、今夜の一緒にいた相手が中沢さんだと確信していた。
二人の間での話し合いは進んでいる。
私を傷付けることなく終わることを彼は望んでいる。
「…もう……ダメね。頑張れないよ…」
心のどこかで少しは思っていた。もしかしたら克哉は本当に私の側から離れることなどないのではないかと。
少し自惚れていたのかも知れない。
――私に触れるその手が、余りにも優しいから。
「…どう…してぇ……」
涙は私の心を軽くはしない。
むしろ克哉への愛をより深く自覚するだけ。
だけど、止まらない。
今はただ、泣かせて。
泣くのは今夜限りにするから。
克哉の枕を抱えて顔を埋める。
大好きな人の匂いに包まれて私は静かに泣き崩れていた。