私たち、政略結婚しています。
どうしてこんな風になってしまうのだろう。
すれ違いばかりで本音で話せない。
佐奈の気持ちがこちらに向いたかも知れないと思った途端に今度はこの始末だ。
俺はいつだって、たった一言伝えたいだけなのに。
……パタン。
その時、寝室から佐奈が出てくる気配を背中に感じた。
黙ったまま振り向かずにいると、佐奈の足音が俺の真後ろに聞こえた。
「克哉…、まだ怒ってるの?」
「…怒っている訳じゃない」
「じゃあ、何?はっきり聞かせて」
これ以上、誤魔化し切れない。
「…もう…、この結婚生活が面倒になった。
終わりを感じてる」
こんな事が言いたい訳じゃない。
お前と離れたくなんかない。
「……そっか。……えへへ。
あ、あのさ…、私、バカだからさ〜、言われないと分からないのよねっ。
よかったわ、聞けて。
じゃあ休むわね。
あ、週明けには出て行くから。荷造りとか今から少しずつ片付けるから。
な、…中沢さんにはあと二、三日待ってもらって。本当に私ってつくづくアホだわ、自分で気付くべきだったのに。
二人の邪魔ばかりしてるわね。悪気はないのよ、鈍いだけなの」
わざと明るくおどけて話す佐奈の気持ちが痛いほどに伝わってくる。
"私は平気だから。気にしないで。
あんたなんかいない方がせいせいするんだから"とでも俺に思わせたいのだろう。
違う。…お前は…俺が側にいないとダメなはずだ。