私たち、政略結婚しています。
結婚の本当の理由
佐奈が逃げ出すように寝室に駆け込んで、そのドアがバタンと閉まった瞬間にドアから目を離し亜由美を見た。
彼女は妖艶な笑みを隠しきれずに、ニヤリとしながらドアを見ている。
「亜由美」
呼びかけると、はっとした様子で俺を見上げる。
「何…?」
わざとらしく悲しげに曇り始めたその顔を見つめ返す。
「佐奈さん、よほど思い詰めていたのね。急にあんな事…。驚いたわ」
俺はざわざわと背筋を凍らせながら亜由美を見たまま黙っていた。
そんな俺に彼女は悲しげな表情の演技をすることをやめて一気に質問を浴びせだす。
「克哉?どうしたの?
お母さんはいつ来るの?
私のことを話すんでしょ。あの子はいつまでここにいるの?もう出て行くのよね」
「……ああ」
寝室の方をもう一度チラッと見てから、俺は亜由美に微笑んだ。
このくらい、訳なくできる。
佐奈をこれ以上傷付けたくないから。