私たち、政略結婚しています。
「佐奈」
ドアに向かって呼びかける。
返事がない。
「佐奈?」
再び呼ぶと、勢いよくドアがガチャッと開いた。
「ごっ、ごめん!支度が遅くて!
とりあえずね、当面の必要な物だけ詰めたの。
残りは後で取りに……、いえ、宅配で送ってもらって…」
ニコニコしているが、目が赤い。
泣き虫な佐奈のことなら何でも分かる。
俺への本当の気持ち以外は。
「ごめんね、今すぐ行くから!
写真をね、探してたの。二人で撮ったやつ。ここに置いておいてもね、邪魔かなって。
私が記念に持って行くわ。どこにあるか知らない?」
「………行くな」
「え」
赤く涙で濡れた目が、俺を見上げた。