私たち、政略結婚しています。
…あ…。
そっと重ねられる、柔らかな彼の唇。
それは、甘く強引に、頑なな私の心を引き込んでいく。
彼しか、私には必要ないと思わせる。
――そんな風に思ってはいけないのに………。
『仕方がない。…俺がお前をもらってやるとするか』
半年前に克哉にそう言われた時のことが、あれ以来頭から離れたことはない。
ため息混じりで……逃げられない宿命なのだと自分に言い聞かせるかのように彼はそう言った。
…私は愛されている訳ではない。彼の実家が、老舗の菓子メーカー『イトー開明堂』であったが為の、決断。
彼と肌を重ねるたびに…勘違いしそうになる…。
その手が、唇が…あまりにも優しくて、…包みこまれる度に自分に言い聞かせる。
『私を好きな訳ではない。これは彼にとっては義務なのよ…』
会ったこともない男性の元へと嫁がなくてはならない私を可哀想に思い同情しただけのこと。
「佐奈…」
私を呼ぶ、その声も。
何もかもが、偽善であると、必死で自分に向かって心で叫びながらも克哉の主管に翻弄されていく。