私たち、政略結婚しています。


「お前さ、普段はトロいくせに足は速えーのな。マジで見失いそうだった」

何も言わずに顔を克哉の肩に伏せている私に彼は話し続ける。

「裸足で全力疾走したのなんて学生時代ぶりだよ。おまけにこの雨だし。お前といるとろくな目に合わねぇわ、マジで」


「…じゃあ追わなきゃいいじゃない。あのまま別れてしまえば良かったのよ」

素直になれずについまた悪態をついてしまう。


「………そしたら泣くくせに。じゃあ亜由美のとこに戻ろうか?」


私はガバッと顔を上げた。


「ダメよ!!バカね!冗談に決まってるでしょ?!私を好きだと言ったじゃない!」

克哉はブッと吹き出した。

「ははっ。必死。バァーカ」

白い歯を出してお日様みたいな笑顔を見せる。

その顔を見ていると、また涙が溢れてくる。

好きで、切なくて、悲しかった。別れる日に怯えて暮らしていた。
そんな毎日はもう嫌だ。


「…必死になるわよ。……好きだもん」

「……え」

「ふぇ…っ、う、う……。うわぁぁん」

耐えきれず再び私は大声で泣き出してしまった。



< 182 / 217 >

この作品をシェア

pagetop