私たち、政略結婚しています。
「お前さ、普段はトロいくせに足は速えーのな。マジで見失いそうだった」
何も言わずに顔を克哉の肩に伏せている私に彼は話し続ける。
「裸足で全力疾走したのなんて学生時代ぶりだよ。おまけにこの雨だし。お前といるとろくな目に合わねぇわ、マジで」
「…じゃあ追わなきゃいいじゃない。あのまま別れてしまえば良かったのよ」
素直になれずについまた悪態をついてしまう。
「………そしたら泣くくせに。じゃあ亜由美のとこに戻ろうか?」
私はガバッと顔を上げた。
「ダメよ!!バカね!冗談に決まってるでしょ?!私を好きだと言ったじゃない!」
克哉はブッと吹き出した。
「ははっ。必死。バァーカ」
白い歯を出してお日様みたいな笑顔を見せる。
その顔を見ていると、また涙が溢れてくる。
好きで、切なくて、悲しかった。別れる日に怯えて暮らしていた。
そんな毎日はもう嫌だ。
「…必死になるわよ。……好きだもん」
「……え」
「ふぇ…っ、う、う……。うわぁぁん」
耐えきれず再び私は大声で泣き出してしまった。