私たち、政略結婚しています。
会社の人たちに知れたら離婚だと言っていたくせに。
今日の克哉は自分から私に近寄ってきている。私と夫婦だと知れたら恥ずかしいんじゃないの?
私は首をかしげた。
「うまくいってるみたいですね」
「秋本くん」
「何かそんなに仲良くしているところを見たら俺、邪魔できないな〜。
これから少し頑張るつもりでいたのに」
「もう。からかわないでって言ってるでしょ」
二人で話しながら克哉を見る。
資料を片手に走り回っている彼は私達が見ていることに全く気付いてはいないようだ。
「だけど無事で良かったよ。まさか火事騒ぎになるなんて。驚いた」
「ええ。私もショックで週末は寝込んじゃったわ。
彼女もいつか分かればいいなって克哉と話してたの」
「そうですね。…まあ、自分には理解できないですけど」
「……そうね…」
たぎるように恋する想い。
何をしてでも彼が欲しいとがむしゃらにもがいていた。そんな中沢さんを相変わらず私は責める気にはなれない。
犯罪者になってしまうことの見境すらなくなってしまっていた彼女も、恋するただの女に過ぎない。