私たち、政略結婚しています。
Ⅱ・本当は、好きだけど
もうやめる
「佐奈。ソース取って」
「うん。はい」
目の前のソースを彼に差し出す。
いつもの光景。
私の作った夕飯を残さず食べる克哉を見ながら、私も箸を動かす。
いつまで続くんだろう。
『夫婦ごっこ』の行く末は予測がつかない。
茶碗を持つ彼の手には指輪もない。私の薬指にも。
彼が『事実は隠す』と宣言してから籍だけ入れた形で始まった私たちの結婚。
夫婦の真似事のようなこの事態に初めは戸惑ったけれども今では不安すら感じることもない。きっと初めから期待なんてしてはいなかったからだろう。
だけど心のどこかが叫んでいる。『終わりたくない。いつまでもこうしていたい』と。
私を救うために状況を見かねた彼が手を貸しただけのこと。その現実は変わらない。
「何?ジロジロ見て。何かあったのか」
克哉に言われ、手を止めて彼を凝視している自分に気付いた。
「あ、…ううん。何も」
「お前、会議の時から何かおかしいぞ。俺が光村さんを構ったのがそんなに気に入らなかったのかよ。
普段はプンプンしてるくせに嫉妬だけは一人前だな」
え。
「…いやだ、自惚れが過ぎる。これだから自分はモテると勘違いしてる男は嫌なのよ」
私は何気ないふりを装い慌てて味噌汁を啜った。
「…全く、可愛くねぇ。お前のそういうとこ、ホント嫌だわ。意味が分からねぇから。何なの、その返し」
ズキッ。
彼の言い方に素直に傷付く。
だけど今さらどうしようもない。可愛くなんて出来はしない。こうして虚勢を張ってこれまで平気なふりをしてきたのだから。