私たち、政略結婚しています。
――「佐奈?もういいぞ」
そのとき、私が背中を当てているドアが微かにガタガタと動いた。
克哉がドアを開けようとしている。
だけど、私が扉の前に座っているせいでそれは開かない。
「佐奈?あれ?開かない」
ガチャガチャと彼がノブを動かしている。
「佐奈っ。どうした?開けろよ」
私は無言のまま、その場を動かなかった。
「…もう、やめる。こんなことはもう嫌」
私がポツリと言うと、ドアは静かになった。
「佐奈…?」
「中沢さんと…よりを戻せばいい。私は…もう、いいから」
「…聞こえていたのか?…違うんだ、彼女は…」
頬をいつしか濡らしていた涙を、グッと拭うと私はさらに言った。
「私は、出て行くわ。もともと…夫婦の真似事だったんだもの。やめればいいだけのことよ。借金のことは…実家でよく話し合うから」
「佐奈。出て来い。俺の話を聞け」
「助けてくれて、感謝してる。本当に…ありがとう」