私たち、政略結婚しています。
私の存在が、彼の優しさが…二人の恋を終わらせたのだとしたら。

私はここにはいてはいけない。

「私、出て行くから。今すぐに。中沢さんを呼び戻して」

「佐奈!」

もういいの。
実家を助けてもらっただけで十分だったのに。
これからも一緒にいて欲しいだなんて、むしがよすぎたの。贅沢なことばかりを考えて、あなたを苦しめていたね。

私はそっと立ち上がると、クローゼットを開いた。

服をランダムに選んで鞄に数着詰め込む。
残りは改めて取りにくればいい。

でも、…私の服が残っていたら、中沢さんにばれてしまうかな…。
考えていると涙が溢れてくる。

楽しく、幸せな日々が終わる。
大好きな人との生活はとても素晴らしかった。

その時、部屋のドアが静かに開いた。


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