私たち、政略結婚しています。
二人で過ごす時間が長くても、毎晩のように身体を重ねても、たった一つだけ手に入らないもの。
それは、お前の心。
どれだけ思っても、願っても。
簡単には届かない。
今、思いを告げたら、佐奈はきっとこのままここにいるだろう。
彼女は、断れないのだから。
今、周りに公表したなら逃げだすこともできなくなるだろう。
彼女の立場を利用して俺の妻にしたのだから。
どうしたらいいのか、分からないまま俺はリビングでぼんやりしていた。
「…克哉?…あの」
佐奈が寝室から出てきて小さな声で俺を呼ぶ。
「…いいよ。出て行っても。佐奈の好きにしろ」
彼女の方を見ないままで答える。
それがお前にとって幸せなことならば。
「中沢さんに、会いに行かないの?」
「…何で」
俺は彼女を睨んだ。
佐奈はビクッとしてからさらに言う。
「私なら…本当にいいから。これから実家に行って話し合ってくるわ」
「…へえ?俺のために身を引くのか。泣かせるじゃねぇか。
それともいい事をしたと自己満足に浸りたいのか」
「…そんな。
身を引くのは当たり前でしょ。そりゃあ遠慮するわよ。
私、克哉に恋人がいたなんて知らなかったの。知ってたら、結婚なんてしなかったわ」