私たち、政略結婚しています。

エレベーターを待っていると私の隣に人の気配がした。

何気なく見ると、克哉が階表示のランプを見ていた。

ふと目が合い、私は視線を正面に戻した。

「…下?」

「えっ」

彼に聞かれて再び彼の方を見る。

「下に行くのか」

「あ、…うん」

「あー…、サンプル取りに行くのか」

「う、うん」


抑揚のない声で話す克哉を見ていると、感情が溢れてこみ上げそうになる。
グッと堪えて平静を保つ。

その唇に…、指に…髪に触れたい。
その胸で今すぐ私を包んで欲しい。

どうしてもっと素直になれなかったのだろう。
もっと抱きしめてもらえばよかった。

こんな風に触れられなくなる前に。


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