私たち、政略結婚しています。
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「ねえ、浅尾さん。ちょっと話したいんだけど」
社員食堂でふいに話しかけられ顔を上げた。
仕事の都合で一時間ほど遅くに昼食を取っていた私に、その人はニコリと微笑んだ。
人はまばらで、私たちの近くには誰もいなかった。
「中沢…さん」
その人の名前を呼ぶと、彼女は私の前の席に座った。
「私のこと、知ってた?突然ごめんなさいね」
「…いえ」
会話をするのは初めてのことだった。
受付で毎日見かけてはいたけれど…。
目の前の彼女をまじまじと見つめて思う。…本当に綺麗な人だ。
透き通るような肌に薄化粧。
クリリと大きな目は愛らしい。
男性ならば、すれ違うときに振り返らない人などいないのだろうなと素直に思った。