私たち、政略結婚しています。

「あの…?」

私は身構えた。
克哉の恋人だった人。
私が二人を引き離した。

彼女の恋人だった人の腕に抱かれて今朝は目覚めた。

私にそんな権利などないくせに。
実家のことがなかったならば、彼に抱かれるのは今もこの人だったのに。

幸せだと、離れたくないと思った。私は中沢さんにも、克哉にも、悪いことをしている。
その自覚はもちろんある。

「そんなに驚かないで。話してもいいかしら?時間、ある?」

「…はい」

逃げだすつもりなんてない。
怖いけれど、彼女の話を聞く義務が私にはある。

「じゃあ、遠慮なく、言わせてもらうわ」

ニコニコしていたその顔が、急に険しくなるのを見ながら私は唇を固く結んだ。


< 55 / 217 >

この作品をシェア

pagetop