私たち、政略結婚しています。
「俺の嫁に何をした!許さねぇ!」
私の言葉を無視して彼が男に向かって叫ぶ。
殴られた男はよろけて道路に倒れこんでいる。
「ちょっと!何してんのよ!」
私は再び彼に言った。
「…は?…お前!こんなやつをかばうとかふざけんな!」
振り返った彼が私を睨みながら言う。
「かばってる訳じゃないわ!危ないでしょ!もし刃物とか持ってたら!」
私もそんな彼を睨み返した。全身が震えてくる。
私は改めてストーカー男を正面から初めてまじまじと見た。
小肥りで虚ろな目をした男が俯いて茫然としている。
この人は私の何を知っているのだろうか。話したこともないのに、私を好きだと思ったのだろうか。
「女を背後から追い回すことしかできねぇようなこんな情けない奴がそんな真似できるかよ!」
「分からないじゃない!軽率よ!」
「じゃあこのまま見逃せってのかよ!?」
「そうじゃなくて、もっと考えてって言ってるの!」
「バカなの!?お前!これは犯罪なんだぞ!」
「だから!」
そこまで言い合った、その時。
「どうしました!?」
近所の住人と共にこちらに向かって駆けてくるお巡りさんの姿が目に入った。
倒れこんでいた男が突然がばっと顔を上げて立ち上がると勢いよく逃げ出そうとした。
「あ!待て!」
彼は男の身体に飛びついた。
「克哉!ダメ!危ないって!!」