私たち、政略結婚しています。
あの時すぐに気付けば良かった。
佐奈は本気で嫌がっているのだと。
そんな佐奈の気持ちにも気付かずに俺は毎晩彼女をこの腕に閉じ込めたんだ。
逃げ出さないように、願いながら。
「…何かあったの?」
「え、…ああ、悪い。少し思い出して」
俺が黙ると亜由美が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「私…諦めた訳じゃないのよ。克哉がその気になるまで待つから」
「いや、待たれても、ないよ。…悪いけど」
どうして人の想いとはうまく繋がっていかないのだろうか。
俺も、亜由美も。
手繰り寄せても縮まらない距離に、もどかしさを感じている。
泣けるほどに感情が高ぶったのは久しぶりだ。
祖父が死んだ三年前以降、自発的に泣くことなんてなかった。
佐奈の冷たい拒絶に、ただ、悲しみがこみ上げてきた。
こんな風に誰かを想うことなんて、もうないような気がする。