私たち、政略結婚しています。
その先は、聞きたくない
「悪い、遅くなった」
部署に戻って企画のチームの皆に詫びる。
「伊藤、どこに行ってたんだよ。浅尾が先に戻ってるぞ。すれ違ったのか?」
「そうみたいだな」
何事もなかったかのように言うと俺は席に着いた。
チラリと目を遣ると、隅の席に佐奈が座って書類を見ている。
「じゃあ、明日の撮影について細かいところを煮詰めよう。伊藤、初めての奴しかいないから負担をかけるがよろしくな」
同期の山野が申し訳なさそうに言う。
「いいって。すぐに慣れるよ。じゃあシャツのカラーの確認からいこう」
しばらくは佐奈を気にする余裕もなさそうだ。
仕事が立て込んでいる間は没頭できる。
しかし、これからのことを彼女と早急に話し合う必要がある。
「このシリーズはモデルは布川さんで良かったよな。サイズはM、身長が…」
だが何故、佐奈は今のタイミングで我慢が利かなくなったのだろう。
「浅尾。モデルの確認は?」
俺が彼女に話をふると、佐奈は書類から目を離さないままで言った。
「…済んでます」
「そうか」