私たち、政略結婚しています。
そんな彼女を見ながら思う。
今朝までは何ともなかった。
俺が目を覚ますと、呆れたように微笑みながら俺の髪を撫でていた。
そんな佐奈が可愛くて、ずっとこのままいたいと思わせたんだ。
寝ぼけたふりをして彼女を困らせてみたけれど、怒ったようなそぶりは見せなかったのに。
「伊藤?」
俺がぼんやりしていると山野に呼ばれた。
「あ。悪い。…じゃあ次は…」
何か、腑に落ちないもやもやがあった。
だけど耳に残る、佐奈の言葉。
『嫌いよ、あんたなんか』。
そんな風に言われたらもう、引き止めることなんてできはしない。
佐奈の言ったことがどうか嘘であってほしいと思うが故の、都合のいい思い込みだろうか。
違和感を感じるのは、最後の悪あがきなのだろうか。
打ち合わせが終わり、なるべく佐奈を見ないようにしながら淡々と仕事をこなす。
今は、何も聞きたくない。考えたくない。
そんな風に思う俺の気持ちが漏れ出しているかのように、その日はそれから誰も話しかけてはこなかった。