私たち、政略結婚しています。


***

静まり返ったマンションの部屋の前で鍵を取り出しそっと開ける。

ドアを開けると、やはり明かりは無かった。

「実家に帰ったか」

小さな声で呟いて、靴を脱ぐ。

もう、あの笑顔に出迎えられることは無いのだと思うと、言いようのない寂しさを感じた。

リビングのソファにスーツの上着をバサリと置くと、ネクタイを緩めながら寝室に向かおうとそっとドアに手をかけた。


――「う…っ。ぐすっ。…うぇぇー…」

な!?
何だ!?

中から微かに聞こえてくる声にギョッとした。

明かりも点いていない部屋から、泣き声がする。

俺はそっと耳をすました。


< 70 / 217 >

この作品をシェア

pagetop