私たち、政略結婚しています。
……そう。この男。
短気で偉そうで、意味不明な。
伊藤克哉。
私を会社に置き去りにしたくせに何故だかこんなところで待っている。
危険を顧みずにストーカーに殴りかかる。
私をバカ呼ばわりする。
そんな彼は、実は………私の、…旦那。
私と夫婦なのだ。
「すぐに済みますから、ご同行願えますか?」
「あ、ええ。いいですよ」
彼はにこやかに答えるとお巡りさんに付いて歩き出した。
私は茫然とその後ろ姿を見る。
…と、クルリといきなり彼が振り返った。
一瞬にしてよそゆきの笑顔が消える。私を見るときにはいつもこうだ。
「アホかお前。お前が話をしなきゃならないだろうが。被害者なんだから」
「は?」
「は?じゃねえよ!早く来い。トロいな全く。そんなだから付きまとわれるんだ」
ムカ。本当にこいつは…!
「命令しないで!アホとか言わないで!威張らないで!」
私は歩きながら一気に文句を言った。手足を大きく大げさに振って歩き、怒りをアピールする。
目の前にいるストーカー男が怖かったことも忘れて、追い抜きそうになる。
やっぱり腹が立って仕方がない。ムカムカとしながら大股で歩く。
私に対してだけ、どうしてそんな態度なのよ!
「ははっ。無理なことばっか言うな。アホ」
私の後ろから克哉の楽しそうな声がする。
「キーッ!むかつく!最悪!」
「サルかよ。あはははっ」
本当に、こんなやつ…!勘弁し…!
「ま、そんなお前は可愛いからいいけど?いちいちムキになっちゃってさ。本当に面白いよな」
「うっ!」
私は彼を見た。
「そんだけ元気なら、怖かったのも忘れたな。もっと怒らせてやろうか?」
こいつ…。わざと…私を怒らせてる?
……ホント…、調子が狂って……困るわ。
私は赤い顔で再び俯いた。
ストーカーが怖いとか、…それどころじゃないよ…。心臓がバクバクと鳴りだす。
不意打ちはやめてよね…。
「お前はやっぱ、怒っているのが一番らしくていいわ。ちょっとうるせぇけどな」
私は返事ができないままで鳴り響く胸を押さえていた。