私たち、政略結婚しています。
にこやかに話しかけてきた彼は、お隣の企画三部の秋本智樹。
私と克哉の一つ後輩だ。

今回の企画の起用は最終選考に残った彼のチームとの一騎打ちになる。

「ちょっと遅れてるみたいだね。
しかしさ、巻頭をメンズに持っていかれたとしたら婦人部の恥だよな。何としても負けられないよ」

彼が撮影の様子を見ながら言う。

「うふふ。そんな事を言っていると負けたときに言い訳できないわよ。…なんて偉そうに言いながら私たちも何もできずにこうして眺めているだけなんだけどね。そばに行くと邪魔になりそうだから」

私がそう言った後で全員の視線は克哉に向けられた。

きびきびと的確な指示を出しながら、時折腕時計に目を遣る。そんな彼をこの期に及んでまで本当に素敵だと改めて思う。

彼を失った後できっと私は数え切れないほどの後悔に見舞われるのだろう。

仕方がない。
私は自分を可愛く見せる方法を知らないのだから。


中沢さんみたいに素直に彼を好きだと表現できたなら、未来は変わっていたのだろうか。




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