私たち、政略結婚しています。
カタッ。
その時現れた人影。
私は顔を上げてその人物を見た。
「………マジ……?」
「秋本……くん」
秋本智樹は唖然とした顔で私を見下ろしていた。
「……何だよ……それ」
……ばれた。
何とか言わないと。
でも………何を話したら……。
「今の……受付の中沢さんだよね」
私は涙を拭うと彼を再び見上げた。
「……伊藤さんと…。そんな事情があったんだ…。
いやー……、びっくりした。
あ、俺、…浅尾さんが戻らないから心配で。
……ごめん」
オロオロし始めた彼を見て、私は微かに笑った。
「謝らないで。…聞いた通りよ。
私、二人を引き裂いたの。
家業がもう駄目で…克哉の家の会社の傘下に入るために結婚したの。
秋本くんが思っていた通り、私ずっと彼が好きだった。
結婚しようって言われたときは…嬉しくて、理由なんてどうでも良かったの。
でも…彼には…彼女がいて。私、知らなかったの。
別れて欲しいと彼女に言われて………。でも彼は責任感から納得しなくて。
彼女は……克哉に待っていてほしいと言われて…指輪をもらって……」