謎チョコ

タイトル未編集

謎チョコ



「長崎君、これ！」
いきなり、帰宅途中、電車待ちのホームでチョコを渡された。


長崎ショウタは、相手の女性の顔をみた。おそらく20代前半で、細身、髪は肩よりも少し長め。好みか否か、即答を求められたら間違いなく好みのタイプだ。


しかし、この人、誰だっけ？以前、どこかで会ったことがあるような気もするが、初対面のような気もする。


「わたし？覚えてません？」
彼女は、ちょっと困ったような笑顔を浮かべた。


「えっと・・・」
ショウタは、反射的に頭へ手をやって掻いてしまった。


確か今、長崎くんと呼ばれた。ということは、学生時代の同級生だった子か？


高校、大学時代の同級生なら、まるでわからない程、印象が変わってしまう可能性は低いだろう。


中学校？いや、小学校か？


特に女子は、別人のように変わってしまっていてもなんの不思議もない。時間にしたら3秒ほどの間、ショウタは自分の記憶と目の前にいる女性を照合しまくった。しかし、該当者なしという回答しか得られなかった。



「失礼ですが、どなたでしたっけ？」
ショウタは、苦笑いを浮かべながら尋ねた。



「いいんです、別に、忘れてしまったならそれで・・・。でも、このチョコ、食べてください！感謝の気持ちですから」
そう云って、その彼女は背を向けて逃げるように足早に去っていった。



しかし・・・誰だっけ？小学校の時に、片思いだったサヤカちゃんに似ているような気がしないでもないけど、まるで別人のような気もする。


あとは・・・


家に帰り着くまで、ショウタは過去の記憶を可能な限りチェックしてみたが、さっきホームでチョコをくれた女性と合致する相手を思い浮かべることは出来なかった。


部屋のドアポストに、宅配便の不在票が差し込まれていた。


差出人は、遠距離恋愛中のミワだった。昨夜、メールで仕事の都合で当日はそっちへ行けないので、チョコ送りました。週末には行きます。と伝えてきていた。荷物の中身は、そのチョコだろう。


ショウタは部屋着に着替え、缶ビールを飲みながら、テーブルの上に3つのチョコを並べて、どれから食べようかと・・・ちょっと迷っていた。


そう、再配達してもらった交際中の彼女、ミワのチョコ。


そして、会社の同僚の菅野さんからもらったチョコ。
菅野さんは「これ、ほとんど義理だけど・・・」と、なんか少し曖昧なことを云いながら、渡してくれた。


おまけが、ホームで不意に渡されたチョコ。


この3つを眺めているうちに、バレンタイデーのチョコには、やっぱりそれなりに相手の強い想いがこもっているような気がして、食べる順番がイコール自分の気持ちの現れでもあるようなに思えた。


最初に食べるチョコが重要なのか、それとも最後に食べるチョコが重要なのか？


真ん中は、さして重要ではなさそうだ。といっても、最初に食べるチョコが決まらなければ、真ん中に食べるチョコも食べられない・・・


ということは、最初が決まれば、全てが決まる！


だったら最初はどれだ？やっぱり、現在進行形の彼女のミワのチョコか？


でも、そうなると最後は、未だ謎の彼女のチョコになる・・・


しかし、あの彼女はどこの誰だろう？


もしかしたら、チョコの包の中に、彼女の名前とか連絡先とかを書いたモノが入っているかもしれない・・・


ショウタはそう考えるとちょっとワクワクしてきた。


「よし、ミワ、菅野さん、謎の子」の順だ。


そう決めて、チョコをひとつずつ食べ始めた。



結局、最後に食べたチョコの包の中には、彼女の正体がわかるような手がかりはほとんど入っていなかった。


ただ、ありがとう！好きです！　Ema　と、ピンクのペンで手書きの小さなカードが一枚入っていただけだった。


翌日、ネットのトップページのニューストピックに目が止まった。


新手のバレンタイン詐欺商法発覚！
突然、見知らぬ美人からチョコレートを渡され、後日、高額の代金請求をされるという被害が続出しているという記事だった・・・