隠し事があるんです。【短】
「しかもね、最初から全部嘘なんだよ」

「…」

「だっておかしいじゃない。男に男が襲われるって…。そいつも私と同じような人だったならあり得るかもしれないけど。普通男は女を襲うでしょ?つまり、私は襲われてなんかいない」

 言っちゃった。
 でも、まだ。まだジンへの隠し事は終わらない。


「両親は離婚なんかしてないよ。今でもラブラブ。家だって失いかけたこと、ない」


 そう。今までジンに話した辛い過去は全て嘘。
嘘で塗り固めた私は、本当の私じゃない。

男から女へ、性を偽った違う姿。


「ごめん。嘘なんだ。私の辛い過去全て」

「おま…っ、本当、なのか?」


 雪はしんしん降り積もり、私とジンの体温を奪っていく。
さっきまで握られていた私の手の温もりも、消えていく。

ジンの温もりが、ジンの愛が消えていく気がする。


 手が冷たいよ、ジン。
でも、もう握ってはくれないよね。


 ジンは嘘だ、嘘だ、と繰り返し、両手で顔をおおった。
目から出た涙は雪の上に重なっていく。

 いくら涙を流したって、この気持ちは報われない。
 いくらジンを想ったって、ジンは遠のいていくに違いない。

さよなら。バイバイ。


いつか、この涙が報われる日が来ないかな。と、少なくとも思ってしまった自分が憎い。
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