叶わぬ恋の叶え方
「ええ、いいですよ」
そう言って咲子は、マジックで色紙に「高村さんへ 柊えれな」と書いた。彼女は笑みを浮かべて、それを高村さんに返した。
「うわー! 本物のえれなちゃんのサインだぁ。うれしいなぁ。僕、これ一生の宝物にするよ」
そう言う高村さんの目は宙空を漂っている。
高村さんは大喜びで病室を去って行った。
「何なの? あの人」
好奇心に抗えずに、江波さんがたずねてくる。
咲子は両肩を上げる。
「あの人、あなたをタレントか誰かと勘違いしているみたいだわ」
「どうやらそのようですね」
咲子は再度両肩を上げる。
「あなたったら、その何とかっていうタレントのふりをして色紙にサインしちゃったのね」
「ええ、まあ。あの人も喜んでくれましたし……」
江波さんは呆れた表情を浮かべながらもこう言った。
「まあ、あのお兄さんもかわいそうな人だものね。障害のせいで親に捨てられて、おまけに心臓病にまでかかっちゃうなんてさ。あなたは親切なことをしてあげたってわけよね」
「ええ、そのつもりです」