叶わぬ恋の叶え方
お呼ばれのメニューはオムライスにサラダ、コンソメスープだった。オムライスの卵はとろふわに焼かれ、上にデミグラスソースがかけられている。正直、料理の腕は咲子より先生の方が上かもしれない。

さっきは「君の料理が食べたい」なんて言われたけど、咲子に彼を満足させることができるだろうか。

食後に、冷凍庫から舶来の高級アイスクリームを出してもらった。ベルギー産チョコレートのアイスクリームだ。たまの贅沢をしたい時に味わう、とっておきのアイスだと先生は言った。「とっておき」を出してくれるなんてうれしいことだ。
   
夕食を食べ終えて、咲子は「とっても美味しかったです」と言った。

先生はいつもの穏やかな笑みを浮かべて「丹羽さんに喜んでもらえて良かった」と言った。

食事の後片付けは咲子も手伝った。

先生の横で彼と一緒に作業をしていると、なんだか彼の奥さんになったような気分になる。元妻が彼としょっちゅうこんな時間を過ごしてきたのかと思うと、羨ましいし妬ける。

テーブルを台拭きで拭いて、片づけを終えると、先生が一言たずねた。

「良かったら今夜泊まっていく?」

「今夜?」

「うん。明日、僕は遅出だし君は休みだろう」

「ええ、まあ、そうですけど……でも、何も持ってきてないですし」

そう言いながら、そういう問題なのだろうか咲子は思った。

「着替えとかは僕ん家のを使えばいいよ」

先生が事も無げに言う。

「でも、あの、先生、それって結構展開早くないですか」

「君の気が進まないなら、別に引き止めないよ。『良かったら』って言ってるんだ」

先生は依然として優しい目をしている。咲子が彼の誘いを拒んでも、別に気にはしないのだろう。

「あ、はい。すみません、今日はやめておきます」

「またいつか、その気になったら長居してほしい」

「ええ。っていうか、先生って意外にその、積極的なんですね」

大人の男女が関係を進展させていく平均的なスピードはどれくらいなんだろう。

「そうかな。僕が最後に女性に触れてからもうどれくらい経つんだろう? 何年になるのかな。もちろん、最後に触れたのは元妻だけど、彼女とはどうがんばってもやっぱり友達だったんだよ」

その刹那、先生の目に寂しさが浮かんだのを、咲子は見逃さなかった。

「でも、丹羽さん。君に対して抱いているのは『友達』っていう感じじゃないんだ。君には女を感じている。ものすごくね」

それから彼は静かに付け加えた。
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